日中どうにも眠い、たっぷり寝たはずなのに体が重い。そんな経験はありませんか。「気合いが足りないのかも」と自分を責めてしまう人もいるかもしれませんが、その眠気の正体は「貧血」かもしれません。
貧血になると血液中で酸素を運ぶ力が落ち、脳が慢性的な酸素不足に陥ります。さらに鉄は脳の覚醒や睡眠の回復にも深く関わっているため、いくら寝ても疲れが取れない状態を招くことがあるのです。
この記事では、貧血が眠気を引き起こすメカニズムから、見逃されやすい「隠れ貧血」やむずむず脚症候群との関係、自分でできるセルフチェック、鉄分の効率的な摂り方、そして病院を受診する目安まで、今日から使える情報をまとめました。
貧血になるとなぜ眠くなる?
ヘモグロビンが減って酸素を運ぶ力が落ちると、脳が酸素不足に陥り、眠気やだるさが生じます。貧血の種類が異なっても、この「酸素の運搬能力の低下」が眠気の共通の原因です。
ヘモグロビンが減ると酸素の運び屋が足りなくなる
ヘモグロビンは赤血球に含まれるたんぱく質で、肺で受け取った酸素を全身に届ける「運び屋」の役割をしています。イメージとしては、ヘモグロビンは荷物(酸素)を乗せて走るトラックのようなもの。鉄はこのトラックの中心的な部品であり、鉄が不足するとトラック(ヘモグロビン)の台数が減り、運べる荷物(酸素)の総量が落ちてしまいます。
体はこの酸素不足を補おうとして、心臓をいつもより速く・強く動かして血液をたくさん送り出そうとします。その結果、動悸や息切れといった症状が現れることがあります。
脳は酸素不足にとても敏感
脳は体重の約2%しかないにもかかわらず、全身の酸素消費量の約20%を使う臓器です。そのため、酸素の供給が少しでも減ると、脳は真っ先に影響を受けます。
軽い貧血のうちは、脳の血管を広げて血流量を増やすことで酸素不足を補います。しかし、ヘモグロビンがさらに下がると、この代償のしくみだけでは追いつかなくなり、脳の酸素不足がはっきりと現れてきます。眠気だけでなく、集中力の低下や頭がぼんやりする感覚は、この脳の酸素不足のサインです。
鉄不足は脳の「覚醒スイッチ」にも影響する?
鉄は酸素を運ぶだけでなく、脳の中で「やる気」や「心地よさ」を感じるための神経伝達物質の材料でもあります。鉄が不足すると眠気に加えて意欲の低下や気分の落ち込みが起きやすくなります。
鉄はドーパミンやセロトニンの「材料」
脳内で意欲や集中力に関わるドーパミン、気分の安定に関わるセロトニンといった神経伝達物質は、つくられる過程で鉄を必要とします。具体的には、これらの物質を合成する酵素が正しく働くために鉄が欠かせません。
鉄が不足するとこれらの神経伝達物質の生産効率が下がり、日中のやる気が出ない、気分が沈みやすい、イライラしやすいといった症状につながることがあります。
ドーパミンは日中の「目覚めスイッチ」でもある
ドーパミンは「やる気」だけでなく、日中の覚醒を維持する働きも持っています。ドーパミンの機能が低下すると、注意力の持続が難しくなったり、やるべきことへの意欲が湧かなくなったりします。
これは睡眠不足と似た症状であるため「寝足りないのかも」と思いがちですが、実は鉄不足が根本原因かもしれません。カフェインは一時的に覚醒作用をもたらしますが、ドーパミンの不足そのものを解消するわけではありません。「コーヒーを何杯飲んでもシャキッとしない」と感じている方は、睡眠時間を増やすよりも鉄の状態を確認してみることをおすすめします。
鉄不足で睡眠の回復力が下がるのはなぜ?
鉄が足りないと、たとえ7〜8時間しっかり寝ていても、体がうまく回復できなくなります。大切なのは「何時間寝たか」ではなく、「寝ている間にどれだけ体が回復できたか」という視点です。
鉄欠乏性貧血の人は睡眠の質が低い
鉄欠乏性貧血がある人は、そうでない人と比べて睡眠の質が低いことが、複数の研究から明らかになっています。鉄不足の状態では、ヘモグロビンの減少により睡眠中の酸素供給が十分に行き渡らず、傷ついた細胞の修復、成長ホルモンによる組織の再生、免疫機能の調整といった「夜間の回復作業」が妨げられます。
つまり、睡眠時間を増やしても根本的な解決にはなりにくいのです。「怠けているわけではないのに、朝からだるい」「8時間寝たのに2〜3時間しか寝なかったような疲労感がある」と感じている方は、睡眠の「量」ではなく「回復力」に問題があるサインかもしれません。
筋肉の回復にも鉄が必要
酸素を運ぶのはヘモグロビンだけではありません。筋肉の中には「ミオグロビン」という酸素を蓄えるたんぱく質があり、これも鉄を含んでいます。
鉄不足ではミオグロビンも減るため、筋肉に酸素をため込む力が弱くなります。その結果、朝起きたときの体のだるさや筋肉の疲労感につながるのです。
ヘモグロビン(血液中の酸素運搬)とミオグロビン(筋肉中の酸素貯蔵)の両方が鉄を必要としているため、鉄不足では全身の酸素利用効率が二重に落ちてしまいます。寝ても体の重さが取れないとき、筋肉レベルでの酸素不足が関わっている可能性があります。
鉄不足で足がむずむずして眠れなくなることがある?
鉄欠乏は「むずむず脚症候群」と呼ばれる症状のリスクを高めます。夜、横になると足の内側がむずむず・チクチクして動かさずにはいられなくなるこの症状は、睡眠の質を大きく下げる原因になります。
むずむず脚症候群とはどんな症状か
むずむず脚症候群は、じっとしているときに脚の内部に不快感が生じ、脚を動かしたくなる衝動が特徴の症状です。特に夜間に悪化しやすく、寝つきが悪くなったり、夜中に目が覚めたりする原因になります。
鉄欠乏性貧血がある人のむずむず脚の有病率は一般の約4〜5倍とされており、鉄不足と深い関連があることがわかっています。自分では「脚が気になって寝つけない」とは思っていなくても、無意識に脚を動かして睡眠の質が下がっているケースもあります。
自分では気づきにくい「隠れた睡眠妨害」
むずむず脚症候群の厄介な点は、本人が「脚のせいで眠れていない」と自覚しにくいことです。「なんとなく寝つきが悪い」「夜中に何度か目が覚める」という形で現れることが多く、原因が脚の不快感だと気づかない方も少なくありません。
パートナーから「寝ている間に足をよく動かしている」と指摘されたことがある方は、むずむず脚症候群の可能性を視野に入れてみてください。鉄を補充することで症状が改善するケースも多いため、心当たりがあれば医師に相談してみましょう。
健康診断で「貧血なし」でも油断できない?隠れ貧血とは
ヘモグロビンの値が正常でも、体に蓄えられた鉄が減っている「隠れ貧血(潜在性鉄欠乏)」の状態では、眠気やだるさが起きることがあります。通常の健康診断だけでは見つからないケースが多いのが厄介なところです。
フェリチンは体の「鉄の貯金」
体の中の鉄には、今まさにヘモグロビンとして使われている「現役の鉄」と、いざというときのために肝臓などに蓄えられている「貯金の鉄」があります。この「貯金の鉄」の量を反映するのがフェリチンという数値です。
フェリチンが減っているということは、貯金を切り崩している状態です。まだヘモグロビンは正常値を保っていても、体の鉄の余裕がなくなっている危険信号といえます。
隠れ貧血でも眠気やだるさは起きる
ヘモグロビンが正常範囲内だからといって、鉄が十分とは限りません。フェリチンが低い状態では、たとえ「貧血」の診断基準に届かなくても、疲れやすさ、だるさ、集中力の低下、睡眠の質の悪化などの症状が現れることがわかっています。世界的には、鉄欠乏性貧血の少なくとも2倍の人が隠れ貧血の状態にあるとされています。
問題は、一般的な健康診断ではヘモグロビンは測定してもフェリチンは測定しないことが多い点です。そのため「健診では貧血なしと言われたけれど、なんだかずっと体調がすっきりしない」という人の中に、隠れ貧血が潜んでいる可能性があります。心当たりのある方は、次の健診や受診時に「フェリチンも一緒に測ってほしい」と相談してみてください。
鉄欠乏だけではない?眠気を引き起こす貧血の種類
鉄欠乏性貧血が最も多いですが、ビタミンB12や葉酸の不足による貧血、慢性的な病気に伴う貧血でも眠気は起こります。どのタイプでも「ヘモグロビンが減り、酸素を運ぶ力が下がる」という根本のしくみは同じです。
最も多い鉄欠乏性貧血
鉄欠乏性貧血は、貧血の中で最も多いタイプです。食事からの鉄摂取不足、月経による出血、消化管からの慢性的な出血などが主な原因となります。
赤血球が通常より小さくなるのが特徴で、爪が割れやすい、氷を無性に食べたくなる(氷食症)、口角が切れるといった、鉄不足に特有のサインが現れることもあります。
ビタミンB12・葉酸が不足する巨赤芽球性貧血
ビタミンB12や葉酸が不足すると、赤血球のもとになる細胞がうまく分裂できなくなり、通常より大きく不完全な赤血球がつくられます。この状態を巨赤芽球性貧血と呼びます。
鉄欠乏性貧血との違いは、しびれや手足のチクチク感、ふらつきなど神経系の症状が伴いやすい点です。ビタミンB12は肉・魚・卵・乳製品などの動物性食品に多く含まれるため、極端な偏食やベジタリアンの方はリスクが高まります。
慢性的な病気に伴う貧血
関節リウマチ、腎臓病、がんなどの慢性的な炎症を伴う病気では、体が防御反応として鉄の利用を制限することがあります。炎症によってヘプシジンというホルモンが増え、腸からの鉄の吸収や体内での鉄の再利用がブロックされるためです。
このタイプの貧血では、鉄を摂るだけでは改善しにくいのが特徴です。原因となっている病気の治療が優先されます。
| 貧血のタイプ | 主な原因 | 特徴的な症状 | 赤血球の特徴 |
|---|---|---|---|
| 鉄欠乏性貧血 | 鉄の摂取不足・月経・慢性出血 | 爪の変形、氷食症、口角炎 | 通常より小さい |
| 巨赤芽球性貧血(B12・葉酸不足) | 偏食、吸収障害、胃の病気 | 手足のしびれ、ふらつき、認知機能低下 | 通常より大きい |
| 慢性疾患に伴う貧血 | 炎症性疾患、腎臓病、がんなど | 原疾患の症状+だるさ、食欲低下 | 正常サイズのことが多い |
どのタイプの貧血も「眠気やだるさ」は共通の症状として現れますが、随伴する症状やリスク因子が異なるため、血液検査の結果をもとに医師と原因を特定することが大切です。
自分の眠気は貧血のせい?症状で振り返るチェックリスト
眠気に加えて「疲れやすい」「顔色が悪い」「爪が割れやすい」などの症状が重なっているなら、貧血の可能性を考えてみてください。以下のチェックリストで心当たりがないか振り返ってみましょう。
眠気と一緒に出やすい貧血の随伴症状
貧血の症状は眠気だけにとどまりません。酸素不足は全身にさまざまな不調として現れます。以下の症状に心当たりが多いほど、貧血が隠れている可能性が高まります。
- 日中の強い眠気やだるさが何日も続いている
- 十分寝ているのに疲れがとれない
- 階段を上るだけで息が切れる、動悸がする
- 顔色が悪い、唇やまぶたの裏が白っぽい
- 頭がぼんやりして集中力が続かない
- 頭痛やめまい、立ちくらみが増えた
- 肌が乾燥しやすい、髪が抜けやすくなった
鉄不足に特有のサインにも注意
さらに、鉄不足に特有の症状として以下のような変化があります。一般的な体調不良とは異なる独特のサインなので、ひとつでも当てはまるなら血液検査を受けてみる価値があります。
- 爪が薄くなって割れやすい、スプーンのように反り返る(さじ状爪)
- 氷やかたいものを無性に食べたくなる(氷食症)
- 口の端が切れやすい(口角炎)
- 舌がつるつるして痛む
- 足がむずむずして寝つけない
なぜ女性は貧血になりやすい?月経・妊娠と鉄の関係
月経のある女性は毎月鉄を失いますが、日本人女性の多くは食事からの鉄摂取量が足りていません。厚生労働省の関連データでは、20〜40代女性の約65%が貧血またはかくれ貧血の状態にあると報告されています。
月経で失われる鉄の量は意外に多い
月経のある女性は、毎月の出血によって鉄を継続的に失っています。ある研究によると、月経による鉄の損失は1日あたり約0.65mgにのぼります。これに基礎的な鉄の損失(約0.82mg/日)を加えると、月経のある女性は1日あたり約1.5mgの鉄が必要になります。
食事から摂った鉄がすべて吸収されるわけではない(吸収率は食品の種類にもよりますが平均10〜15%程度)ことを考えると、食事だけで十分な鉄を補うには意識的な工夫が必要です。
妊娠・授乳でさらに鉄の需要が増える
妊娠中は赤ちゃんの成長のために母体の鉄の需要が大幅に増加します。特に妊娠後期には胎児の発育と母体の血液量増加のために鉄の需要がピークに達し、食事だけでは補いきれないケースが少なくありません。
授乳期も母乳を通じて鉄が赤ちゃんに移行するため、引き続き鉄の需要は高い状態が続きます。妊娠・授乳中の強い眠気やだるさは「仕方ないこと」と片づけられがちですが、貧血が関係している可能性があるため、気になる場合はかかりつけ医に相談してみてください。
貧血は女性だけの問題ではない?男性の鉄不足
「貧血は女性の悩み」というイメージが強いため、男性は自分の眠気やだるさが鉄不足から来ているとは考えにくいものです。しかし、男性にも鉄不足は起こります。しかも男性の場合、貧血の裏に消化管の病気が隠れている可能性があるため、見逃さないことが特に大切です。
男性の鉄不足が見逃されやすい理由
男性は月経がないため鉄不足になりにくいと考えられがちです。しかし、月経以外にも鉄を失う原因はさまざまあり、以下のようなケースで鉄が不足することがあります。
- 消化管からの慢性的な少量出血(胃潰瘍、大腸ポリープなど)
- 偏った食事(野菜や肉が極端に少ない食生活)
- 激しい運動による鉄の消耗(スポーツ貧血)
- 痔からの出血が長期間続いている場合
男性の原因不明の疲労は消化管出血の可能性も視野に入れて確認することが大切です。特に中年以降の男性で貧血が見つかった場合は、消化管の疾患が隠れていないか精密検査を受けることが推奨されます。
また、マラソンや自転車など持久系のスポーツを行う方は「スポーツ貧血」にも注意が必要です。運動中に足裏の衝撃で赤血球が壊れたり、発汗で鉄が失われたりすることで、気づかないうちに鉄不足が進行することがあります。
鉄分を効率よく摂るには?ヘム鉄とノンヘム鉄の違い
肉や魚に含まれるヘム鉄は吸収率が15〜35%と高く、野菜や穀物に含まれるノンヘム鉄(吸収率2〜20%)に比べて効率的に鉄を補給できます。両方をバランスよく食事に取り入れることが大切です。
ヘム鉄は吸収されやすく、ノンヘム鉄は工夫が必要
食品に含まれる鉄には、動物性食品に多い「ヘム鉄」と、植物性食品や卵・乳製品に含まれる「ノンヘム鉄」の2種類があります。
ヘム鉄の吸収率は15〜35%でノンヘム鉄より高いのが特徴です。ヘム鉄はそのままの形で腸から吸収されるため、食べ合わせの影響を受けにくいという利点もあります。
一方、ノンヘム鉄は食事全体の鉄摂取量の大部分を占めているため、決して無視できません。ビタミンCなどの吸収促進因子と組み合わせることで、吸収率を高めることができます。
食事に取り入れやすい鉄分の多い食品
鉄を効率よく摂るために、ヘム鉄とノンヘム鉄それぞれの代表的な食品を知っておくと便利です。
| 鉄の種類 | 代表的な食品 | 吸収率の目安 |
|---|---|---|
| ヘム鉄(動物性) | 赤身肉、レバー、カツオ、マグロ、イワシ、アサリ | 15〜35% |
| ノンヘム鉄(植物性) | 小松菜、ほうれん草、大豆製品、ひじき、全粒穀物 | 2〜20% |
毎日の食事でレバーを食べ続けるのは現実的ではないので、赤身の肉や魚を週に数回取り入れつつ、日常的には大豆製品や葉物野菜からノンヘム鉄を補う、というバランスがおすすめです。朝食に納豆、昼食にカツオのたたき、夕食にほうれん草の付け合わせ、といった形で少しずつ取り入れてみてください。
鉄の吸収を助けるもの・妨げるものは?
ビタミンCはノンヘム鉄の吸収を大きく高めてくれます。一方、お茶やコーヒーに含まれるポリフェノール(タンニン)は鉄と結びついて吸収を妨げます。食べ合わせを少し意識するだけで、同じ食事でも鉄の吸収効率が変わります。
ビタミンCが鉄の吸収を助ける仕組み
ビタミンCはノンヘム鉄の吸収を高める最も効果的な栄養素です。ノンヘム鉄は腸の中で「吸収されにくい形(3価鉄)」になっていますが、ビタミンCがこれを「吸収されやすい形(2価鉄)」に変えてくれます。
実践としては、以下のような食べ合わせが手軽でおすすめです。
- ほうれん草のおひたしにレモン汁をかける
- 食後にかんきつ類やキウイなどビタミンCが豊富な果物を食べる
- 野菜炒めにピーマンやブロッコリーを加える
- 納豆にパプリカのみじん切りを混ぜる
お茶・コーヒーのタンニンと鉄の関係
お茶やコーヒーに含まれるポリフェノール(タンニン)は、鉄と結びついて吸収されにくい複合体をつくります。特にノンヘム鉄への影響が大きく、食事中や食直後にこれらの飲み物を大量に摂ると、せっかくの鉄分が無駄になってしまう可能性があります。
食事の前後30分〜1時間はお茶やコーヒーを控えるのが理想的です。食間に楽しむ分には問題ありません。また、カルシウムもヘム鉄・ノンヘム鉄の両方の吸収を妨げるため、牛乳やサプリメントは鉄分の多い食事と時間をずらして摂るとよいでしょう。
食事で改善しないときはどうすればいい?
食事の見直しだけでは鉄が追いつかない場合、医師と相談のうえでサプリメントや鉄剤を活用する方法があります。ただし、鉄は摂りすぎにもリスクがあるため、自己判断での大量摂取は避けましょう。
サプリメントや鉄剤という選択肢
食事からの鉄摂取を意識しても改善が見られない場合や、月経過多などで鉄の損失が大きい場合は、経口の鉄剤やサプリメントが選択肢になります。
医療機関で処方される鉄剤は、吸収効率のよい鉄の形(硫酸鉄やフマル酸鉄など)が使われており、市販のサプリメントよりも鉄の含有量が多いのが特徴です。
鉄剤の服用を始めてから血液検査の数値が改善するまでには、一般的に60〜90日ほどかかります。「飲んですぐ効く」ものではないため、焦らず継続することが大切です。
副作用として胃のむかつきや便秘が出ることもありますが、服用のタイミングを食後に変える、1日の量を分けて飲むなどの工夫で和らぐことがあります。気になる場合は自己判断で中止せず、医師に相談してください。
鉄の摂りすぎにも注意が必要
鉄は不足すると問題ですが、過剰に摂りすぎると肝臓や心臓に負担をかけるリスクがあります。特にサプリメントは手軽に大量の鉄を摂れてしまうため、用量を守ることが重要です。
鉄の補充が本当に必要かどうかは、血液検査で鉄の状態を確認してから判断するのが安全です。「なんとなく貧血っぽいから」という理由で自己判断でサプリを飲み始めるのは避け、まずは医師に相談することをおすすめします。
どんなときに病院を受診すべき?検査でわかること
眠気やだるさに加えて動悸・息切れ・顔色の悪さが数週間以上続くなら、一度内科で血液検査を受けてみてください。「たかが眠気」と放置すると、心臓への負担が長期化するなどのリスクがあります。
受診の目安になるサイン
以下のような状態が続く場合は、早めに医療機関を受診することをおすすめします。
- 強い眠気やだるさが2週間以上続いている
- 階段や軽い運動で息が切れる、動悸がする
- まぶたの裏や爪の色が白っぽい
- 月経量が多い、または不正出血がある
- セルフチェックの症状に複数当てはまる
受診先は内科(一般内科・血液内科)が基本です。月経に関連した症状がある場合は婦人科でも相談できます。「このくらいなら大丈夫」と思いがちですが、鉄不足は放置するとどんどん貯蓄が減っていくため、早めの対応が回復を早めます。
血液検査でチェックする項目と数値の目安
貧血が疑われる場合、血液検査では主に以下の項目を確認します。
| 検査項目 | 何がわかるか | 一般的な基準値の目安 |
|---|---|---|
| ヘモグロビン(Hb) | 血液の酸素運搬能力 | 女性 12.0g/dL以上、男性 13.0g/dL以上 |
| フェリチン | 体内の鉄の貯蓄量 | 30ng/mL未満で鉄欠乏の可能性 |
| 血清鉄 | 血中を流れている鉄の量 | 基準範囲は検査機関により異なる |
| TIBC(総鉄結合能) | 鉄を運ぶたんぱく質の余力 | 鉄不足で高値になる |
特にフェリチンの測定を依頼することが大切です。通常の健診ではヘモグロビンしか測らないことが多く、フェリチンを追加で調べることで「隠れ貧血」を見つけられる可能性が高まります。受診時に「フェリチンも調べてほしい」と伝えてみてください。
貧血以外に「いくら寝ても眠い」原因はある?
鉄の数値が改善しても眠気が残る場合や、血液検査で鉄の問題が見つからなかった場合は、他の原因も視野に入れてみましょう。「いくら寝ても眠い」にはさまざまな背景が考えられます。
甲状腺機能低下症の可能性
甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの分泌が減ることで全身の代謝が低下し、強い眠気や倦怠感を引き起こす病気です。貧血と同様に「だるい」「やる気が出ない」「寒がりになった」「体重が増えた」という症状が出るため、区別がつきにくいことがあります。
特に女性に多い病気であり、貧血と合併していることもあります。血液検査で甲状腺ホルモン(TSH、FT4)の値を調べることで確認できるため、貧血の検査で鉄に問題がなかった場合は、甲状腺の検査も一緒に相談してみるのがおすすめです。
睡眠時無呼吸症候群の可能性
睡眠時無呼吸症候群は、寝ている間に何度も呼吸が止まることで深い睡眠が妨げられる病気です。本人は熟睡しているつもりでも体は休めていないため、日中の強い眠気につながります。
以下のような特徴がある方は、この可能性も視野に入れてみてください。
- いびきが大きいと指摘されたことがある
- 朝起きたときに頭痛がある
- 日中に強い眠気があり、居眠りしてしまうことがある
- 口呼吸の癖がある
貧血と睡眠時無呼吸が同時に存在するケースもあり、片方だけ治療しても眠気が改善しないことがあります。眠気の原因が一つとは限らないため、鉄の値が正常でも症状が続く場合は、複合的な原因を探る姿勢が大切です。
まとめ
貧血による眠気は「気のせい」でも「怠け」でもなく、体の中で起きている酸素不足のサインです。ヘモグロビンの減少によって脳や筋肉に届く酸素が不足することが根本的な原因であり、正しい知識と対処で改善が期待できます。今日からできることを整理しておきましょう。
- 貧血の眠気はヘモグロビン減少による脳の酸素不足が原因です。鉄は酸素運搬だけでなく、ドーパミンなど脳の覚醒にも関わる重要な栄養素です
- 鉄不足は睡眠の回復力を下げ、いくら寝ても疲れが取れない状態を招きます。むずむず脚症候群による睡眠妨害にも注意が必要です
- 健診で「貧血なし」でもフェリチンが低い「隠れ貧血」の可能性があります。眠気やだるさが続くなら、フェリチンの検査を依頼してみてください
- 鉄分はヘム鉄(肉・魚)を中心に、ノンヘム鉄(野菜・大豆製品)はビタミンCと組み合わせて吸収率を高めましょう
- お茶やコーヒーは食事の前後30分〜1時間は控えると、鉄の吸収を妨げにくくなります
- 眠気に加えて動悸・息切れ・顔色の悪さが続くなら、内科で血液検査を受けることをおすすめします
- 貧血が改善しても眠気が残る場合は、甲状腺機能低下症や睡眠時無呼吸症候群など他の原因も視野に入れましょう
参考・出典
- The Impact of Low Hemoglobin Levels on Cognitive Brain Functions (2020)
- Iron Deficiency-Induced Changes in the Hippocampus, Corpus Striatum, and Monoamines Levels That Lead to Anxiety, Depression, Sleep Disorders, and Psychotic Disorders (2021)
- Assessment of subjective sleep quality in iron deficiency anaemia (2015)
- Iron-Restricted Diet Affects Brain Ferritin Levels, Dopamine Metabolism and Cellular Prion Protein in a Region-Specific Manner (2017)
- Iron in Restless Legs Syndrome (2018)
- Iron deficiency without anemia - a clinical challenge (2018)
- Anemia of Chronic Diseases: Wider Diagnostics - Better Treatment? (2020)
- Cobalamin Deficiency: Clinical Picture and Radiological Findings (2013)
- Physiological requirements for iron in women of reproductive age assessed by the stable isotope tracer technique (2019)
- Iron Absorption: Factors, Limitations, and Improvement Methods (2022)
- The Effect of Parenteral or Oral Iron Supplementation on Fatigue, Sleep, Quality of Life and Restless Legs Syndrome in Iron-Deficient Blood Donors (2020)
- Chronic Fatigue Syndrome in Patients with Deteriorated Iron Metabolism (2022)
- Iron Deficiency and Sleep/Wake Behaviors: A Scoping Review of Clinical Practice Guidelines (2024)
- 貧血・かくれ貧血 - 働く女性の心とからだの応援サイト(厚生労働省)
- 鉄 - e-ヘルスネット(厚生労働省)
- Recommendations to Prevent and Control Iron Deficiency in the United States (CDC)